水分が存在すると吸水により寸法が変化します。プラスチックの種類により吸水性、飽和吸水量が異なります。吸水速度は気温、湿度、接触時間などの条件に依存します。吸水することで、寸法だけではなく、機械的強度、導電率、誘電損率なども変化してきます。
非常に高い寸法精度が要求される用途では、吸湿・吸水による寸法変化が問題となります。切削加工で図面通りの寸法が達成できても、製品が実際に使用されるまでの間に空気中の水分を吸収して膨潤することにより、微妙に寸法に狂いが生じ問題となった例もあります。吸水率1%あたりで、ポリアセタールコポリマーでは0.45%、ナイロンでは0.3~0.5%程度の体積変化があると報告されています。
PTFEは吸水しない唯一のプラスチックです。吸水率が低い素材として、PEEK、PPS、 PSU、 PPSU、 PEI、 PVDF、 PET、 PPE、 PP、 PEなどがあります。さらに、POM、PA12、PC 、そしてABSも吸水率が低くなっています。
PA(ナイロン)は、通常他のエンプラよりも高い吸水率を示します。これにより、最終部品の寸法変化、強度低下、そして電気絶縁性の変化が生じます。
PI(ポリイミド)は、ナイロンと同様に吸水率が高い特徴があります。しかし、ポリイミドの構造により吸水率が異なり、24時間吸水率は0.08%から0.47%まで大きな違いがあります。吸水による寸法変化を嫌う場合は、TECASINT4000シリーズから選択することをお奨めいたします。
プラスチックは温度上昇により膨張します。一般的に金属よりも高い熱膨張率を示すため、特に以下の場合は考慮する必要があります。
- 寸法公差の厳しい部品
- 激しい温度変化
- 金属との組み合わせ
金属と組み合わせて使用する場合、金属の線膨張係数と樹脂の線膨張係数が異なることにより、樹脂部品にクラックが入ったり、金属と樹脂の接着・密着不良を生じたりする原因となります。
ガラス繊維や炭素繊維を添加することにより、線膨張係数を低下させることができます。アルミと同等の値を示す場合もあります。しかし、ガラス繊維などが配向している方向に限られます。ガラス繊維などがつっかえ棒のように働き、樹脂が伸び縮みしようとするのを妨げます。しかし、垂直方向は、樹脂が自在に伸び縮みしてしまうため、非強化グレードと同等の線膨張係数となります。
以下の素材は、熱膨張率と吸水性が低い寸法安定性に優れたプラスチックです。
加工品の寸法精度
- 加工時の寸法安定性とアニール処理について -
切削加工により、ソリ等の変形が生じることがあります。ソリ量の大小は、内部残留歪みの大きさに依存します。内部残留歪みは、アニール処理により軽減します。
エンズィンガーの素材は、押出成形の後に各素材毎に定められた条件でアニール処理を施しています。また、内部歪みの分布は、一般的に外側から内側にかけて徐々に変化します。これは、押出成形時の固化・冷却が外側から始まっているためです。
板材の表面をプレナーがけする場合は、交互に表と裏を均一になるように表面を落としてください。押出素材は、内部残留歪みが小さい素材ですが、決して0ではありません。加工にあたっては、内部残留歪みの開放に十分注意する必要があります。
アニール処理とは熱処理のことであり、以下の効果が期待されます。
- 結晶性樹脂の結晶化度を上げ、機械強度と耐薬品性を向上させる
- 押出成形や切削加工で生じる内部応力歪みを減少させる
- 広い温度環境下における寸法安定性を増大させる
アニール処理の条件は、樹脂の種類、形状により異なります。詳しくは、技術資料「機械加工ガイドライン」よりご確認いただけます。